
既存住宅インスペクション・ガイドラインを解説|事業者の選び方やよくある質問
既存住宅の資産価値を支える事業者にとって、建物の状態を正しく評価し今後の対策をどう伝えるかで、お客様へ分かりやすく伝えるかが重要になります。その場面でよく使われるのが、国土交通省が公表している既存住宅インスペクション・ガイドラインではないでしょうか。
本記事では、国土交通省が定める既存住宅インスペクション・ガイドラインの内容を分かりやすく整理していきます。
既存住宅インスペクション・ガイドラインとは?策定の目的と内容
ここでは、既存住宅インスペクション・ガイドラインが何を目的に策定され、何をどこまでを扱っている指針なのかについて整理していきます。
インスペクション・ガイドラインの策定背景と目的
既存住宅インスペクション・ガイドラインは、2013年6月に国土交通省が策定した指針です(※1)。この既存住宅インスペクション・ガイドラインが策定された背景には、既存住宅の売買時に行われる検査が、実施する事業者によって内容も方法も異なっている状況がありました。
同じ「インスペクション」という名前でも、確認する部位や判定の方法が統一されていなければ、その結果を同じ条件で比較することができません。そこで、検査を行う者の技術力や検査項目・方法にばらつきが生じないよう、共通して実施することが望ましい最小限の内容を示したものが、このガイドラインです(※2)。
ここでご留意いただきたいのが、このインスペクション・ガイドラインが法令ではなく指針である点です。ガイドラインには罰則を伴うものではなく、適正な業務の実施を促す内容にあたります。後述する宅建業法上の実務とは性質が異なるため、認識のずれをなくす意味でも、お客様へご説明する際にそれぞれ分けて整理しておきましょう。
既存住宅インスペクションの3つの分類とガイドラインの対象
既存住宅インスペクション・ガイドラインでは、インスペクションを目的別に3つに整理しています(※2)。
項目 | 主な内容 | 既存住宅インスペクション・ガイドラインの対象 |
|---|---|---|
現況検査(一次的) | 目視などを中心に劣化事象等の有無を把握 | 対象 |
詳細調査(二次的) | 劣化の原因調査、耐震診断など | 対象外 |
性能向上インスペクション | リフォーム前後の性能を対象とする調査 | 対象外 |
このうち既存住宅インスペクション・ガイドラインが扱っているのは、一次的なインスペクションにあたる現況検査です。既存住宅の売買時に行われる建物検査や、維持管理の場面での定期点検がここに含まれます。
目視等を中心とした現況検査の項目
一次的なインスペクションにあたる現況検査では、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分を中心に確認します。基礎や外壁のひび割れ、雨漏りの痕跡といった劣化事象の有無を、目視や計測によって把握していきます。
確認対象 | 主な確認部分 | 確認方法 | 原則として確認できない範囲 |
|---|---|---|---|
構造耐力上主要な部分 | 基礎、柱、梁、床、壁など | 目視、計測などの非破壊検査が中心 | 壁・床の内部など |
雨水の侵入を防止する部分 | 屋根、外壁、開口部周辺など |
しかし、現況検査は目視・計測を中心とした非破壊検査が基本となるため、壁や床の内部など確認できない箇所があります。一方で戸建住宅の小屋裏や床下については、基本的に点検口から目視可能な範囲になるため、対象になります。
なお、こうしたガイドラインに基づく現況検査は、宅建業法上の建物状況調査と同様に、瑕疵の有無を判定したり、瑕疵がないことを保証したりするものではありません(※3)。年数を経た住宅で劣化事象が確認されること自体は一般的であり、検査の報告書に記載があることが、そのまま契約不適合責任(瑕疵担保責任)の判断につながるわけではないためです。
検査結果を受け取ったあとの認識のずれを防ぐ意味でも、瑕疵の有無や住宅の性能を判定するものではないことはお客様と事前に共有しておくことが、引き渡し後のトラブルの未然防止につながります。
インスペクションで分かること・分からないこと
ここまでの調査範囲を踏まえると、インスペクションで把握できることと把握できないことが見えてきます。
- 分かること
- 劣化事象等の有無
- 構造・防水に関する目視可能な範囲の状態
- 調査時点における建物の現況
- 分からないこと
- 将来発生する不具合
- 隠れた部分のすべての劣化
- 瑕疵の有無
- 建物の性能保証
- 詳細な耐震性能
つまりインスペクションは、調査時点の建物の状態を記録するものであり、この先の不具合を保証したり、住宅の性能を判定したりするものではありません。耐震性についても、書類による確認は行われますが、詳細な耐震診断は一次的なインスペクションの範囲外です(※2)。
公正な検査業務を実施するための主な留意事項
また、既存住宅インスペクション・ガイドラインには、検査を実施する事業者が守るべき留意事項も記載されています。依頼先を検討する際には、主に以下4点を確認しておくといいでしょう。
- 自らが売主となる住宅ではインスペクションを実施しないこと
- 仲介やリフォームを受託している場合、あるいは受託しようとしている場合はその旨を明らかにすること
- 関係する事業者から便宜の供与を受けないこと
- 業務上知り得た情報の守秘義務を負うこと
この4つの留意事項は、検査の客観性や信頼性を確保するために、インスペクションを実施する際に留意すべき事項として示されています。またインスペクションを委託する事業者の立場から見ても、依頼先を検討するときの確認事項としても使えるでしょう。
この既存住宅インスペクション・ガイドライン制度自体が中立性そのものを保証しているわけではないため、検査を行う事業者とあらかじめ確認する意識を持っておくと、検査の客観性を保つことにつながります。
※1引用元:国土交通省「既存住宅インスペクション・ガイドライン」の策定について」
※2引用元:国土交通省「既存住宅インスペクション・ガイドライン」2013年6月
※3引用元:国土交通省「既存住宅流通について(建物状況調査(インスペクション)活用に向けて)」
【宅建業法から見る】既存住宅のインスペクションは義務化された?宅建業者が行うべき3つのこと
既存住宅インスペクション・ガイドラインをもとにお客様へインスペクションの概要を説明するとき、「インスペクションは義務なんですか?」と質問されることもあるのではないでしょうか。
2018年4月に施行された改正宅建業法ではインスペクションの義務化について触れていましたが、実際に改正宅建業法が義務化したのはインスペクションの実施そのものではなく、宅建業者が取引の各場面で行う制度の説明や結果の報告などです(※3)。
この義務化によって影響するのは、宅地建物取引業の免許を持ち、既存住宅の売買に関わる会社です。仲介を担う不動産会社や、仲介部門をお持ちの住宅会社、そして買取再販に取り組む会社は、宅建業法でいう宅地建物取引業者(以下、宅建業者)にあたります。
その前提で、ここでは、既存住宅を販売する売主様と買い取りをする買主様との取引間において、宅建業者が行うべき実務を3つの場面に分けてご説明します。
義務①媒介契約時|建物状況調査のあっせんの有無を書面に記載
1つ目の場面は、売主様から売却の仲介を任せていただくときです。このとき宅建業者は、売主様と取り交わす媒介契約の書面に、建物状況調査を行う技術者を紹介できるかどうかを記載します(※3)。
ここでいうあっせんは、調査事業者の情報をお渡しすることだけではありません。依頼者と調査を実施する者との間で、調査の実施に向けた具体的なやりとりが行われるよう手配することを指しています。あっせん先を自社であらかじめ確保しておけると、スムーズに対応ができるようになります。
なお2024年4月からは、標準媒介契約約款が改正され、あっせんを「無」とする場合の理由を記載する欄が設けられました。あわせて、建物状況調査には瑕疵の有無を判定するものではないという限界があることも、トラブル回避の観点から約款に明記されています(※3)。あっせんの可否をあらかじめ社内で整理しておく必要性が高まっている場面ともいえます。
義務②重要事項説明時|調査結果の概要と書類の保存状況を説明
2つ目の場面は、買主様へ行う重要事項説明です。契約前に物件の重要な情報をお伝えするこの場で、宅建業者は、その住宅で建物状況調査が行われているか、行われている場合は結果の概要を買主様へ説明します(※3)。あわせて、設計図書や点検の記録といった、建築及び維持保全の状況が分かる書類が残っているかどうかも説明の対象です。
重要事項説明の対象となる建物状況調査には期間の定めがあります。原則として、調査実施後1年以内のものが対象です。ただし、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等については、2024年4月1日以降、調査実施後2年以内のものが対象となっています。(※3)。
戸建て住宅と共同住宅等で期間が異なるため、物件の構造によって扱いが変わります。中古マンションの取引を扱う場面では、この2年という期間を前提に調査結果を活用できるかどうかを確認していく形になります。
義務③売買契約時|双方が確認した事項を書面で交付
3つ目の場面は、売主様と買主様が売買契約を結ぶときです。宅建業者は、基礎や柱、屋根や外壁など、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分の状況について、売主様と買主様の双方が確認した内容を書面にまとめて交付します(※3)。
この書面を交付しておくことで、引渡しの時点で建物がどのような状態にあると両者が認識していたのかを記録として残すことができます。年数を経た住宅では特に、引渡し後に見つかった不具合をめぐって認識が食い違う場面も起こるかもしれません。確認した内容が書面で共有されていれば、そうした行き違いを未然に整理しやすくなります。
買取再販では、仕入れ段階で調査を行うことで、物件の状態把握や再販に向けた修繕計画に活用できます。ただし、再販時の重要事項説明で建物状況調査の結果として扱う場合は、調査の実施時期や調査内容など、宅建業法上の要件を満たしているか確認が必要です。
以上、宅建業者が行うべき3つのことでした。
3つの視点から考える既存住宅向けインスペクション事業者の選び方
宅建業者が行うべき3つのことが理解できたら、「では、インスペクションを委託するとき、どこに依頼すればよいのか?」と思うかもしれません。インスペクションの中でも建物状況調査は実施できる事業者が制度上決まっている一方で、住宅診断は資格の要件は定められていません。さらに、依頼先によって検査の内容や深さが変わってきます(※4)。
そこでここでは、既存住宅向けのインスペクション事業者を検討するときの3つの選び方を整理していきます。
選び方①資格で選ぶ|誰に依頼するか
宅建業法上の建物状況調査を実施できるのは、国の登録を受けた既存住宅状況調査技術者講習を修了した建築士である既存住宅状況調査技術者に限られます(※4)。資格のない方が行った調査の結果は、重要事項説明で説明する調査結果としては扱えません。
「ホームインスペクション」や「住宅診断」といった名称の検査であっても、宅建業法上の要件を満たす場合と満たさない場合があります。調査の名称だけで判断するのではなく、自社の目的に照らして必要なのはどの検査なのかを依頼前に確認しておきましょう。
実務における具体的な使い分けとしては、以下のような場面や目的に応じて整理してみてはいかがでしょうか。
建物状況調査が適している場面:宅建業法上、重要事項説明の対象となる調査結果として活用する場合です。なお、一定の条件を満たした建物状況調査の結果は、既存住宅売買瑕疵保険の手続きに活用できる場合もあります。
住宅診断も選択肢となる場面:買取再販における仕入れ段階の査定判断や、リフォーム計画を検討するための現状把握、お施主様へ修繕の必要性をご説明するための材料として活用する場合です。
このように、何のために調査を行うのかという「目的」をあらかじめ整理しておくことで、スムーズに事業者を手配できるようになります。
選び方②検査の範囲で選ぶ|建物状況調査か住宅診断か
2つ目は、検査の範囲です。同じインスペクションでも、建物状況調査は方法基準によって調査する部位と判定の方法が定められています。一方の「住宅診断」や「ホームインスペクション」は一般的なサービス名称として用いられており、宅建業法上の建物状況調査のように、すべてのサービスに共通する資格要件や調査方法が法律で定められているわけではありません(※4)。
第三者検査には、国の枠組みに基づくものだけでなく、民間企業が独自の基準や品質管理体制のもとで実施しているものもあります。制度や実施主体は異なりますが、いずれも第三者の客観的な視点で住宅の状態を確認し、所有者に分かりやすく伝えることを目的としている点は共通しています。
そのうえで、重要事項説明で結果の概要を説明する場面に使うのであれば、建物状況調査に該当する検査であることが前提になります。何のために調査を行うのかを先に決めてから、それに対応できる依頼先を選ぶ流れにしておくと、目的と検査の範囲に対する認識を揃えやすくなるでしょう。
選び方③目的で選ぶ|瑕疵保険や保証まで見据えるか
3つ目は、調査の目的です。既存住宅売買瑕疵保険への加入や保証サービスの利用まで考えているのであれば、それらの検査とあわせて実施できる依頼先を選ぶことも選択肢の1つです。
また、保険法人が定める検査や、民間の保証制度で求められる所定の検査は、建物状況調査とあわせて実施できる場合があるため、依頼の段階で保険や保証の利用希望をお伝えしておくと手戻りを防ぐことができます(※5)。
たとえば買取再販では、仕入れの時点で調査を実施しておくと、再販時にお客様へ建物の状態をご説明する材料になり、瑕疵保険の活用にもつなげられます。調査を単独の作業として考えるのではなく、そのあとの提案までを含めて依頼先を検討してみてはいかがでしょうか。
※4:国土交通省「既存住宅状況調査技術者講習制度について」
※5:国土交通省「建物状況調査(インスペクション)活用の手引き」2024年4月
【Q&A】既存住宅のインスペクションに関する一般的な質問
ここまで、ガイドラインの内容から依頼先の選び方までを整理してきました。ここでは、既存住宅インスペクションについて一般的にいただく質問をQ&A形式でまとめます。
質問①ホームインスペクションと建物状況調査は同じですか?
同じ場合もあれば異なる場合もあります。事業者によって定義が少し異なる場合もあるので、以下の制度上の位置づけをもとに整理するといいでしょう。
- 国土交通省の「既存住宅インスペクション・ガイドライン」:一次的インスペクションの考え方を示した指針
- 宅建業法上の「建物状況調査」:既存住宅状況調査技術者が既存住宅状況調査方法基準に従って実施する調査
- 民間サービスの「ホームインスペクション」「住宅診断」:法令上の定めがなく、検査範囲や方法を事業者が定める住宅の検査サービス
ホームインスペクションという名称の検査が、宅建業法上の建物状況調査に該当することもあります。こうした検査の名称だけでは具体的な内容を判断できないため、事業者へ依頼前にどの検査を実施すべきかを確認しておくと安心です。
質問②中古マンションのインスペクションは義務化されていますか?
戸建て住宅と同様に、調査の実施そのものは義務ではありません。宅建業法が定める3つの実務は、共同住宅の取引にも適用されます(※3)。
なお、重要事項説明の対象となる調査結果の期間は、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の共同住宅等で2年以内となります。詳しくは本記事の「義務②重要事項説明時」をご確認ください。専有部分と共用部分のどちらを調査の対象とするかによっても進め方が変わるため、管理組合との調整が必要になる場面もあります。
質問③既存住宅状況調査の費用はいくらですか?
国土交通省の手引きでは、建物状況調査の所要時間は1〜3時間程度、費用は6万円程度からが目安として示されています(※5)。
ただし、物件の規模や地域、オプションとなる調査の有無によって幅があるため、実際の見積りは、依頼を検討している調査事業者へ事前に確認しておくと安心です。
質問④既存住宅状況調査のチェックシートや報告書の様式はどこで入手できますか?
チェックシートや報告書の様式は、国土交通省及び既存住宅状況調査技術者講習の実施機関の以下からファイルを直接ダウンロードできます。
国土交通省「チェックシート」
報告書は、部位ごとに劣化事象等の有無を記録するもので、そのうち結果の概要が重要事項説明の対象になります。様式の版が更新される場合もあるため、実際に使用される際は最新の掲載内容をご確認ください。
質問⑤長期優良住宅化リフォーム推進事業のインスペクションとは何ですか?
長期優良住宅化リフォーム推進事業では、リフォーム工事前のインスペクションの実施と、維持保全計画・履歴の作成が補助の要件とされてきました。
なお、同事業は令和7年度で交付申請の受付が終了しており、令和8年度は実施されないことが公表されています(※6)。過去の補助内容を前提にお客様へご案内する場面では、現在の実施状況もあわせてお伝えしておきましょう。
質問⑥ガイドラインに従わない場合、罰則はありますか?
既存住宅インスペクション・ガイドラインは指針であり、従わない場合の罰則は定められていません(※2)。適正な業務の実施のために、共通して実施することが望ましい最小限の内容を示したものにあたるためです。
一方で、宅建業法が定める3つの実務は法律上の義務です。指針としてのガイドラインと、法律としての宅建業法は性質が異なるため、分けて整理しておきましょう。
※6:長期優良住宅化リフォーム推進事業 評価事務局「補助を受けるための要件」
既存住宅のインスペクションを正しく理解して、お客様への提案につなげましょう
本記事では、既存住宅インスペクション・ガイドラインの内容から、宅建業法が定める3つの実務、そしてインスペクションの依頼先を選ぶ3つの基準までを整理してきました。
ガイドラインは2013年に策定された指針であり、宅建業法は、媒介契約時のあっせんの記載、重要事項説明での結果の概要の説明、売買契約時の書面交付という3つの実務を定めています。インスペクション実施そのものは義務ではない一方、取引の各場面での対応は法律上必要になります。
指針としてのガイドラインの話なのか、それとも宅建業法上の実務の話なのか。この区別ができていると、お客様からのご質問にも根拠を持ってお答えしやすくなると考えます。その上でインスペクションの依頼先を検討する際は、解説した3つの選び方をぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
既存住宅の取引では、建物の状態を客観的な根拠とともにお示しできることが、お客様との信頼につながっていきます。自社での体制づくりに迷う場面では、第三者による調査や検査の活用をご検討いただくのも一案です。本記事が、既存住宅のインスペクションを整理し、お客様へご説明いただく際の材料として、少しでもお役に立てれば幸いです。






