AIのミスで発生した損害は工務店が責任を負うのか

近年、建設業界でもAIの活用が進み、構造計算や設計業務の効率化・高度化が期待されています。
しかし、AIによる判断をもとに設計を行った結果、建築物に不具合が生じた場合、その法的責任は誰が負うのでしょうか。
今回は、構造設計AIを導入した工務店の事例をもとに、AIを活用した設計業務における責任の所在について考えてみます。
Case.1
甲工務店は、構造計算を自動で実施・最適化するAIが開発されたことから、自社で当該AIツールを導入し、荷重条件の設定や部材断面の算定、耐震性能の確認等をAI に行わせ、構造設計の判定を行っていました。
ところが、その結果、竣工後に過大なたわみやひび割れ等の不具合が発生(あるいは完了検査・適合性審査の段階で不適合が判明)しました。
甲工務店は、いかなる理由で施主に対して責任を負うことになるのでしょうか?以下、解説します。

ハルシネーションという現象が起こる
ハルシネーションとは、AIが「もっともらしく見えるが事実ではない情報」を生成してしまう現象のこと。
決して、AIが嘘をついているわけではなく、確率的に最も自然な文章を生成しようとする過程で起きてしまう「やむを得ず生じる現象」です。
工務店がAIを活用する際には、ハルシネーションのリスクを認識して、注意深くAIを活用する必要があります。
AIは法主体性をもたない
事例では、AIが判断ミスをしていますから、甲工務店としてはAIに責任を取ってほしいところでしょう。しかし、AIには法主体性がないため、AIそのものに損害賠償を求めることはできません。
また、製品に組み込まれていない「ソフト」としてのAIは、物や製造物に該当しないため、AI開発会社に製造物責任法を根拠に責任追及することもできません。
さらに、AI開発者に対しても、特別な契約を交わしていない限り、責任追及は困難です。納品後のアップデート義務などが契約で明確に定められていれば別ですが、通常はAIのハルシネーション等に関して「開発者は一切責任を負わない」とする免責条項が入っていることが通常です。
工務店の責任となるのか?
工務店側が構造計算の専門知識が全くないという場合、AIを「補助ツール」として使っているというより、実質的にAIに全面依存している状態といえます。工務店の対応に落ち度はあるとは評価できません。
また、AIを活用しているからといって、法律が結果のすべてを工務店が負うべきだという立場をとるわけでもありません。工務店が施主との契約上、どのような責任を負うことになるのか? という点についてアプローチをすることになります。
構造計算は設計業務
構造計算は、必要な構造形式・部材断面・補強を確定し、安全性・適法性を担保するための構造設計の中核となる業務です。建築士法第3条~第3条の3では、設計は建築士でなければ行えないと定められています。
そのため、構造計算や意匠・設備設計、法規判断、設計図書作成、建築主への説明は、建築士資格のないAIが主体的に行うことはできず、責任主体にもなりません。AIが担えるのは、あくまで建築士が行う設計業務の補助に限られます。
こうした前提から、甲工務店が建築士事務所登録を行い、重要事項説明でも自社が責任を負う旨を明示している場合には、AIの誤作動によるミスであっても甲工務店が責任を負うことになります。
一方、建築士事務所登録をしていない工務店で、施主との設計契約は別の建築士事務所が担っている場合には、その建築士事務所がAI出力を含めた構造計算内容をチェックするべきであり、責任主体も建築士事務所側となります。

AIは、自ら検証できる場面で活用することが大切
「自分では内容がよくわからないが、AIが代わりにやってくれる」というのは、人手不足・コストカット対策になるように思えますが、AIが引き起こす誤作動リスクに対しては「どうしてAIの判断結果をチェックしなかったのか」という責任追及を受けることになりますので、弁護士の立場から見ると、リスクが大きいと言わざるを得ません。
とりわけ構造設計・構造計算は建築の安全性を左右する最重要領域です。自ら入力条件や計算方法、基準の使い方、結果の内容を検証できない場合は、構造設計のプロに委託し、安全・安心な家づくりに務めることが肝要であると考えます。

秋野卓生(あきの たくお)弁護士
弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。
2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。
【役職等】
平成16年〜平成18年 東京簡易裁判所非常勤裁判官
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士
一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント
令和6年度 日本弁護士連合会常務理事、第二東京弁護士会副会長






