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近年多発する大地震から考える、建築前に必要なリスクコミュニケーション

―知っておくべき地盤リスク情報―

近年、日本列島で大地震が頻発し、住宅建築における地盤リスクへの対応が重要になっています。

能登半島地震の事例は、耐震性能だけでなく液状化リスクや地盤調査の必要性を示しています。

本記事では、住宅会社が建築前に実践すべきリスクコミュニケーションと調査のポイントを専門家の視点で解説します。

多発する大規模地震

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震は、震度7、マグニチュード7.6という極めて強い地震でした。振り返ると2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、震度6弱以上の大地震は37回、この内極めて大きい震度7の地震は5回、発生箇所は4地域で北は北海道から南は九州まで日本列島全体で発生していました。

また東日本大震災や能登半島地震などは震源地から数百kmも離れた地域に被害をもたらすほど、大地震の影響は広範囲にわたり、戸建住宅を建築する際は、今まで以上に大地震に遭遇する可能性が高いことを意識し 備える必要があります。

リスクコミュニケーション

災害リスクに関して、ハード・ソフト面で対策は準備されてきています。

建築基準法の改訂、耐震等級や地震保険など、過去の事故や震災などの被害経験に基づく備えとなっており、能登半島地震でも現行の耐震基準では 多くの家屋は倒壊を免れており、安心・安全な生活に関わる重要なリスク対策であると考えます。

しかしながら、多くの人は、リスク対策より実感できる利便性や目に見えるデザインなどを重視し、リスク対策を後回しにする傾向があります。

特に宅地は不動産評価価格など土地の価値は立地条件がほとんどです。顧客にとって、宅地に潜むリスクは簡単には目に見えない存在である事を理解する必要があり、建築事業者は既知の情報や地域特性を把握して顧客と建築前にリスクコミュニケーションを取り、リスクを把握した上で、追加調査やリスク対策の是非について、顧客とコンセンサスを取ることが必要であると考えます。

専門家に求められるもの

リスク すなわち、マイナスイメージの情報であり、それを伝えることは顧客が対象の住宅を購入する際に負の要素と捉えられる可能性があります。

しかしながら、リスクを伝えることで顧客がその時選択できる最良の案を専門家として提案、顧客が納得した上で建築してくれることが重要であると考えます。

例えば、地盤調査で支持力を確認することは、現状では『不同沈下対策』としての地盤改良が主な目的となっています。これからは、既存のリスクコミュニケーションの枠組みを広げ、災害時のリスクについてもあわせて考慮が必要です。

建築事業者と顧客にとっての信頼関係の構築の始まりであり、建築後に数十年と続く顧客との最大の安心に繋がる事になり、その基礎となる情報は出来る限り多く収集し、正確に把握することが重要で、分かりやすく説明し理解を得ることで建築事業の専門家としての価値が生まれると考えます。

災害リスクの把握

スクコミュニケーションを実施するためにはリスクとは何か?を知る必要があります。

リスクを知るには2種類の方法があります。

1つ目は既存情報としてハザードマップなどから得られる情報で、行政機関などが発信している情報サイトから収集することで入手が可能です。

またジャパンホームシールドは、「地盤サポートマップ」を提供しており、こういった周辺地盤の状況を活用することも可能です。

2つ目は、位置で実施される地盤調査結果や現地踏査による情報です。

戸建住宅は建築前の地盤調査として、スクリューウェイトサウンディング試験(以下SWS試験)を実施するのが一般的です。しかし、調査目的となるリスクによってはSWS試験だけでは対応できない場合があります。

調査目的に合わせ追加調査の計画し、リスクにあった調査を実施し、地形、地質条件など地盤条件に基づく判断により専門性も高い情報を得ることが必要です。

災害リスクの判断(液状化現象)

”土砂災害”、”洪水”、”地震”による液状化現象といった災害リスクがあります。

液状化現象とは、地下水で飽和した緩い砂地盤に、強い地震動を受けると、地盤が液体の状態に近い挙動を示す現象です。

液状化を引き起こす要因の一つとして、強い地震動は震源地からの距離にもよるものの、地形条件からも大きく影響を受けます。

記憶に新しいところでは、能登半島地震で発生した、新潟県の液状化被害です。

これは、液状化被害発生地域が軟弱地盤の上に位置し、非常に揺れやすい地盤条件であったためです。液状化現象の引き金となる、強い地震動を受けやすい地域は、地震時の揺れやすさマップで確認が可能です。

液状化し易い条件が存在する地形は沖積低地(砂丘末端緩斜面、砂丘・砂州間低地、旧河道・旧池沼、干拓地、自然堤防、三角州・海岸低地など)に多く存在します。

液状化マップは、これら地形条件より液状化の検討が必要かを事前に確認すことがでます。

ただし、液状化マップは、250m×250mメッシュの地域を総合評価しているため、メッシュ内の地形が大きく変化する場合は実際の地形条件と合わないという注意点があります。

地形条件などに違和感がある場合は、原位置地盤調査で液状化の可能性を確認する必要があると言えます。

また 地形条件とは関係ない埋立地や干拓地、地下水位が高い盛土造成地等の人工改変地にも液状化のリスクは存在します。

液状化マップは、人工改変地も全て反映できていないため、液状化リスクを検討する一次的な判断として有効であるものの、原位置地盤調査や実際の宅地の地形条件を確認して判断する必要があります。

次に、液状化マップからリスクが懸念される地域に該当した場合は、原位置地盤調査によるリスクの程度を確認する必要があります。

リスクコミュニケーションでは、単に「リスクがある」だけでなく、そのリスクによる被害程度、対策の実施是非、対策が不可能な場合の対応を説明できる情報が必要と言えます。

原位置地盤調査の評価は、液状化の概ね3段階、顕著な被害の可能性が「高い・比較的低い・低い」の段階評価がなされており、被害の度合いが対策実施の判断指標となっています。

また、原位置地盤調査を実施することで、地盤のどの層が液状化の危険性があるのかを判断でき、コストに見合った対策工法の有無を判断できます。コストに見合う対策工法が無ければ、ソフト面で地震保険などを選択することも可能といえます。

災害リスクを一次判断、二次判断と検討過程を示し、リスクの分かりやすく説明し、顧客の理解を得て、複数の選択肢を提示することが、リスクコミュニケーションに必要な判断プロセスだと考えます。

地下水位測定

長期的に安心安全な住宅の提供

昨今の戸建住宅は高耐久化により、長期間・快適に居住できることを求められており、建物構造は耐震等級など含め、災害に対し強くなっています。

しかし、建物がどれだけ強く居住性があっても、地盤が耐力を失えば、建物の居住性は失われ、資産価値も喪失します。

液状化被害は、場所によっては再液状化による被災家屋が発生しています。

・顧客の認識はどうであったか?

・長期優良住宅など長期的に安心安全な住宅として購入するためにフラット35など長期ローンを組むのではないか?

等、リスクを理解し、建築することが、建築事業者としての力量ではないでしょうか。

昨今の大地震発生状況から災害は運悪く被災するのではなく「いつ被災するか」の時代に入りつつあります。

建築事業に従事する者として、顧客とコミュニケーションを取りながら、現実的で長期的に安心安全な住宅の提供を心掛けて行く必要があると考えます。

地盤技術研究所 所長 酒井 豪
地盤技術研究所 所長 酒井 豪
2003年国交省関東地方整備局にて現場技術員として勤務後、当社へ入社。2011年には東日本大震災の震災対応特別チームにて活動、2014年長野神城断層地震、 2016年熊本地震の現地調査に参加し、2023年地盤技術研究所所長に就任。現在に至る。

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